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【事例:マネジメント層向け研修】トヨタの新プロジェクト「出島-X」。複数社の合同研修だからこそ得られる学びとは
トヨタ自動車株式会社(以下、「トヨタ」)が主導する教育プロジェクト『出島-X(デジマックス)』は、企業間の壁を超えたオープンな学びの場として、多くの企業から注目を集めています。すでに累計で約1,000名、企業数では約60社が、出島-X上のプログラムを受講。急速な広がりを見せています。
本プロジェクトでは特に、DX推進の要となるマネジメント層の育成を最重要テーマと位置づけています。 株式会社キカガク(以下、キカガク)は、研修を提供するパートナー企業として本プロジェクトに参画。 今回は、『出島-X』の発起人であるトヨタの佐川氏(デジタル変革推進部 DX人財育成グループ長)に、プロジェクト立ち上げの背景と、キカガクをパートナーに選んだ理由についてお話を伺いました。
ミドルマネジメント層の「学習の習慣化」こそ、DX推進の鍵
まず、佐川様が統括されている部署の役割と、「出島-X」立ち上げの背景についてお聞かせください。
佐川氏:私はトヨタのデジタル変革推進部にて、DX人財育成グループのグループ長を務めており、全社的なデジタル教育戦略の策定と実行を担っています。出島-Xも、その中の重要なプロジェクトの一つです。
プロジェクト着想のきっかけは、異業種の皆様との意見交換を重ねる中で見えてきた共通の認識でした。それは、DX推進を成功させるためには、ミドルマネジメント層(課長~部長格、以下「ミドル層」)における「学習の習慣化」が極めて重要だという認識です。
なぜ、ミドルマネジメント層の学習の習慣化がそれほど重要なのでしょうか。
佐川氏:企業のドメイン知識に精通しているミドル層は、本来DXの強力な推進者となり得る存在です。DXのように変化の速い領域では、一度学んで終わりではなく、自律的にアップデートし続ける「学習の習慣化」が不可欠です。
一方で、ミドル層は目の前の業務に追われる実務の要でもあります。多忙であることに加え、「デジタル領域の新しい技術の習得は若手の役割」という固定観念もあって学習意欲が高まりにくく、結果として学習の優先順位が著しく低下しがちです。
この課題を解決するためには、どうすればよいか。私たちは、ミドル層の目に魅力的に映り、「思わず参加したくなる」ような質の高い講座を数多く提供できる場を創出することが、一つの答えになると考えました。この着想こそが、出島-Xの発端です。
だからこそ、「どうすれば講座の魅力が増すか」「継続したくなるような“佳き学習体験”をどう設計するか」といった問いを常に自問し、試行錯誤を重ねています。
“いつもと違う”体験が、学びの意欲を掻き立てる
“佳き学習体験”を創出する上で、何を大切にされていますか。
佐川氏:「いつもと違う場所・人・やり方で」という非日常感を演出することです。具体的には、会社らしくない環境、異業種他社とのコラボレーション、そしてユニークなアプローチを大切にしています。これは、前述した“魅力づくり”の核となる考え方です。
日常業務から離れた環境は、人の心を自然と解放します。そのような場で「面白そう」「ワクワクする」といった純粋な知的好奇心を刺激することが、次の受講、すなわち学習の“オカワリ”につながり、ひいては学習習慣の定着へと結実していくと考えています。
私たちが目指しているのは、企業の中に「街」のような場を創造することです。偶然の出会いから新たな発見が生まれ、誰かと何かを始めたくなる。そのような有機的なつながりが自然発生する「街」を実現できたら素晴らしいですね。
日本のDXを加速させる「研修講座シェアリング」
「出島-X」の具体的な仕組みについて教えてください。
佐川氏:出島-Xは、企業が個別に実施してきた研修を組織の枠を超えて共有する「研修講座シェアリング」という仕組みを提案する、開かれた学習プラットフォームです。
講座を提供する「プレゼンター企業」と、研修に参加する「プレイヤー企業」で構成され、様々な企業の参加者が混ざり合って一つの講座を受講します。トヨタもプレイヤーの1社という立場で参加しています。各講座はあくまでプレゼンター企業が主催するオープンプログラムであり、トヨタは商流には一切関与しない中立的な立場です。
どのような企業がプレゼンターとして参画しているのでしょうか。
佐川氏:現在、キカガクを含め4社に参画いただいています。いずれも、私自身が実際に講座を受講し、特にミドル層にとって価値ある学習体験を提供できると確信した、選りすぐりのパートナーです。
「研修講座シェアリング」は、参加企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
佐川氏:この仕組みで目指しているのは、日々の業務の中では起こらない「他社(他者)との交流が当たり前に起こる場を作ること」です。そのために、「研修」という機会をうまく活かせると考えています。
異業種交流を重ねる中で、DX人財育成に関する取り組み内容や課題は、業界・業種を問わず驚くほど共通していると実感しています。だからこそ、各社が個別に動くのではなく、共同で取り組むことでより効率的に、そして前向きに推進できるはずです。
【出島-Xが実現する「研修講座シェアリング」とは】
- 研修講座をさまざまな企業の参加者が混ざって受講する仕組み
- プレイヤー企業は、出島-Xのウェブサイトから募集中の講座を選択し、申し込みフォームを記入するだけ参加可能
- 1名からでも申し込みが可能
【プレイヤー企業の主なメリット】
- 異業種他社との交流:多様なバックグラウンドを持つ参加者との交流を通じて、自社単独の研修では得られない知見を獲得
- 準備負担の軽減:開催日程の調整や会場手配などを集約し、個別手配に比べ担当者の負担を大幅に削減
- 講座選定の効率化:質の高い講座を事前にキュレーションしているため、数多ある教育サービスから選定する手間を軽減
- 少人数での参加:最低催行人数が設定された講座でも、複数社で受講するため、1名から参加申し込みが可能
- スケールメリットによる価格優位性:共同開催によるスケールメリットを活かし、個別開催よりもリーズナブルな価格で受講可能
出島-Xを立ち上げてから、どのような成果や手応えを感じていますか?
佐川氏:現在、累計で1,000名以上の方に講座を受講いただき、企業数はトヨタを含め60社を超えました。特筆すべきは、これらの参加が昇格要件などの義務ではなく、自発的な意思に基づいている点です。
また、製造部門の従業員の参加率が一般的な社内研修よりも高い点も大きな成果です。参加者からは「他企業の方と接することができて刺激になる」といった声が寄せられており、私たちが意図した企業間の壁を超えた学びの価値を実感いただけている手応えがあります。
キカガクを選んだ理由。それは「学びの共同体」を生み出す力と、実践的なカリキュラム
数ある企業の中から、キカガクをプレゼンターに選んだ決め手は何だったのでしょうか。
佐川氏:出島-Xの前身となる取り組みで、私自身がキカガクの講座を受講したことが直接のきっかけです。研修事業者への出向経験から、講座選定には比較的高い基準を持つと自負していますが、キカガクの研修の質の高さには純粋に感銘を受けました。その理由は大きく3つあります。
受講者の主体性を引き出す「学びの場を作る力」
佐川氏:質の高い学習体験は、講師と受講者の間に壁がなく、参加者全員で学びを創り上げようとする「学びの共同体」から生まれます。キカガクの講師陣は、この共同体を極めて自然に形成される点が見事でした。
親しみやすく質問しやすい雰囲気、ロジカルな指導法、そして何よりも「学びを持ち帰って欲しい」という真摯な熱意が伝わってきます。その熱意が受講者に伝播し、「自分もこの研修の場を良くしたい」という当事者意識を引き出すことで、学びの効果を最大化させているのだと感じます。これは、講師として特筆すべき能力だと感じます。
デジタル関連の基礎知識を体系的に網羅する構成
佐川氏:2つ目の理由が「カリキュラムの内容・構成」です。業務で頻繁に目にするデジタル関連の用語が幅広くカバーされています。AIや機械学習など、多くのマネージャーが「知っているつもり」でいる基礎知識を、丁寧かつ分かりやすく解説してくれます。
自信に繋がる「体系的かつ実践的なカリキュラム」
佐川氏:そして、特にパワフルだと感じたのが、実践的なプロジェクト立案カリキュラムです。
自身の職場で直面しているリアルな業務課題を題材に、AIでどう解決するかをプロジェクトとして具体的に構想します。扱うべきデータの種類や取得方法、AIに何を入力し、何をアウトプットさせるのかをフロー図に落とし込む。この一連のプロセスを通じて、AI活用プロジェクトを推進する上でマネージャーに求められる勘所を掴むことができ、実践に向けた確かな手応えを得られます。
現在、出島-Xではどのような講座が開催されていますか。
佐川氏:最も実践的なものは、デジタルプロジェクト推進においてマネージャーに求められるスキルの習得を目指す2時間×8回の集中講座です。
この講座は、単にDXの知識を習得する場ではありません。他社との交流を通じて「現在地」を客観視し、DXへの向き合い方を考える独自の「学習体験」を設計しています。
本講座の特徴は以下の3つが挙げられます。
1. 越境学習による「差分からの学び」
他社とのワークやディスカッションを通して、課題の共通点やアプローチの違いを理解します。これにより、自社のDX推進レベルや組織文化といった点を、客観的な立ち位置から把握できます。
2. 価値創出に繋がる「判断力」の養成
専門人財の能力を引き出し事業価値へ繋げることがミドル層には求められます。そのため技術や知識の習得ではなく、専門人財のアウトプットを見極める「判断力」を養うプログラムを提供しています。
3. 本質的な業務改革プロセスの習得
小手先の効率化に留まらない、デジタルを前提とした本質的な業務改革プロセスの要諦を掴むことができます。
この講座を通じて、組織のDXを力強く推進する、キーマンとなるミドル層の輩出に繋がると考えております。
出島-Xがリードする「越境学習」。組織の壁を壊す挑戦
最後に、出島-Xが描く未来についてお聞かせください。
佐川氏:私たちが目指すのは、企業間の「越境」が日常の風景となる社会の実現です。
IMD(国際経営開発研究所)の「世界競争力年鑑」でも、日本の国際競争力の長期的な停滞が指摘されています。しかし、それは決して日本のビジネスパーソンの潜在能力が低いことを意味するものではありません。優れたスキルや独創的なアイデアを持つ人財は、国内に数多く存在します。
では、なぜその力が最大限に発揮されないのか。私たちはその一因が、組織の壁により視野が内向きになっていることにあると考えています。
出島-Xが目指すのは、この現状を打破する「触媒」となることです。
他社の優れた人財と交流する壁のない学びの場は、新たな視点を与え、自社の常識を健全に疑うきっかけとなります。その小さな変化の連鎖が自律的な組織変革につながり、日本全体の競争力を再興する大きな力になると私たちは確信しています。
このビジョンの実現に向け、より多くの企業が参加できるプラットフォームの整備と、継続的に交流できるコミュニティの活性化という両軸で、取り組みを加速させていきたいですね。
最後に
最後までお読みいただきありがとうございました。
キカガクでは大手企業を中心に1000社以上の企業に導入いただき、DX人材育成における様々な課題解決をご支援しております。
多種多様な業界20社以上の育成事例もご紹介しておりますので、ご興味のある方はぜひご参考ください。
どういった DX人材を育成すればいいのかわからない、自社の課題を解決するような研修をカスタマイズしてほしい、などありましたら、下記フォームからお問い合わせください。御社の希望や予算等をお伺いし、適切な研修をご案内いたします。
また、キカガクが提供しているサービスの特徴やコース詳細についての資料は下記になります。DX 研修を検討されている方のご参考になれば幸いです。
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