【AI 技術導入ガイド】AI エージェント× RAG「 Agentic RAG 」とは?従来の RAG との違いからユースケースまで解説

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【AI 技術導入ガイド】AI エージェント× RAG「 Agentic RAG 」とは?従来の RAG との違いからユースケースまで解説

近年、生成 AI の進化は目覚ましく、その中でも特に注目を集めている技術が、外部の知識ベースを参照して回答の精度を高める「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」です。しかし、従来の RAG には、複雑な問いへの対応や、状況に応じた動的な情報収集が難しいという課題がありました。この課題を解決する次世代のアプローチとして、自律的に思考・行動する「AI エージェント」と「RAG」を組み合わせた「 Agentic RAG 」が登場し、 AI の可能性を大きく広げようとしています。本記事では、 Agentic RAG の基本的な仕組みから従来の RAG との違い、そのユースケースや導入のポイントまで、わかりやすく解説します。


Agentic RAG とは

Agentic RAG の定義

Agentic RAG とは、自律的に思考し行動する「AI エージェント」と、外部情報を検索し回答を生成する「RAG」を組み合わせた、より高度で柔軟な AI システムのことです。

従来の RAG が「検索→生成」という決められた手順を実行するだけのシステムだったのに対し、 Agentic RAG は AI エージェントが状況を判断し、自ら計画を立て、必要な情報を複数の情報源から取捨選択しながら、より精度の高い回答を導き出します。

RAG や生成 AI について詳しく知りたい方は、以下をご参照ください。

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Agentic RAG が必要とされる背景

ビジネス環境が複雑になるにつれて、 AI には単に情報を検索するだけでなく、より高度な要求に応える能力が求められるようになりました。従来の RAG は、一度の検索で回答を生成するシンプルな仕組みでしたが、段階的な調査が必要な複雑な質問への対応が難しく、検索した情報の妥当性を自ら評価できないため回答の信頼性に課題がありました。加えて、複雑な問いに対応しようと大量の情報を一度に処理させる方法ではコストが跳ね上がり、情報源の追加・変更のたびに改修が必要になるなど、運用の柔軟性やコスト面でも限界が見えていました。

こうした背景から、 AI 自らが思考し、行動を計画する「AI エージェント」の能力を RAG に統合したのが Agentic RAG です。 Agentic RAG は、複雑な問いに対して、必要な情報を自律的に判断し、追加の検索やツールの利用を行います。 さらに、得られた情報が本当に正しいかを自己評価し、信頼性を高める「検証ループ」を回すことができます。 このように、 AI がより能動的に、かつ賢く情報を扱うことで、従来の RAG が抱えていた「複雑さ」「信頼性」「柔軟性とコスト」といった課題を解決し、ビジネスの高度な要求に応えるための技術として期待されています。

従来の RAG との違い

Agentic RAG と従来の RAG (生成 AI × RAG )の最も大きな違いは「自律的な思考力と行動力」にあります。

例えば、従来の RAG が得意なのは「A社の最新の株価は?」のように、一度の検索で答えが見つかる比較的シンプルな質問です。これに対して Agentic RAG は、「A社の最近の株価動向と、関連する市場ニュースを分析して、今後の見通しを教えて」といった、複数の調査と分析を組み合わせる必要がある複雑な質問に真価を発揮します

以下の比較表で、その違いを具体的に見ていきましょう。

比較項目

従来のRAG

Agentic RAG

思考プロセス

単一
「検索→生成」の
固定フロー

動的・反復的
状況に応じて
「計画→行動→自己評価→修正」
を繰り返す

情報収集

受動的
与えられた質問に基づき、
一度だけ検索

能動的
自ら追加の質問を生成し、
複数の情報源から網羅的に
情報を収集

ツールの利用

限定的
主にデータベース検索のみ

柔軟
Web検索、 API 連携、計算など、
多様なツールを使い分ける

回答の質

検索結果に依存し、
不十分な場合は誤りを
生成しやすい

自己評価と追加調査により、
より正確で信頼性の高い
回答を生成

このように、 Agentic RAG は単なる情報検索システムではなく、より人間に近い形で複雑なタスクを遂行できる知的エージェントとして機能します。


Agentic RAG の仕組み

Agentic RAG は、複数の専門的な役割を持つ AI エージェントが連携することで機能します。それぞれの役割をみていきましょう。

  1. 計画を立て、指示を出すエージェント
    ユーザーからの複雑な要求を小さなタスクに分解し、「まず何をして、次に何をするか」という全体の実行計画を立てます。オーケストラにおける指揮者のように、他のエージェントに指示を出す司令塔の役割を担います。
  2. 最適な情報源を選ぶエージェント
    分解されたタスクごとに、「どの情報源(社内データベース、Web検索、 API など)にあたるのが最適か」を判断し、処理を的確に振り分けます。
  3. 推論と行動を繰り返すエージェント
    実際にタスクを実行するプレイヤーです。「考え(推論)」と「行動(実行)」を繰り返しながらタスクを進めます。実行結果が思わしくなければ、計画を修正するなど、状況に応じて柔軟に対応します。

これらのエージェント達がチームとして協調し、自律的に「計画→実行→評価」のサイクルを回すことで、従来の RAG では不可能だった、状況に応じた柔軟な問題解決を実現しているのです


Agentic RAG のユースケース

Agentic RAG は、複数の情報源を横断的に扱う必要がある複雑な業務において、その真価を発揮します。

カスタマーサポート: 高度な業務の自動化

従来の RAG では、 FAQ データベースから関連情報を探すのが限界でした。一方、 Agentic RAG は、顧客情報 DB 、注文管理システム、公開マニュアル、さらには配送業者の API までを横断的に参照し、「私の注文した商品はなぜ遅れているの?一番早い代替案は?」といった複雑な問い合わせに対して、具体的な原因と解決策を能動的に提案できます。これにより、オペレーターはより創造的な業務に集中できるようになります。

マーケティング: リアルタイム市場調査・競合分析

「最新の市場トレンドと、競合A社の SNS での評判を分析し、次のマーケティング戦略を提案して」といった高度な要求に応えることができます。 Agentic RAG は、市場調査レポートデータベース、ニュースサイト、 SNS の API などを自律的に調査・分析し、要点をまとめたレポートを生成します。従来の RAG のように、人間が情報源を一つ一つ指定する必要はありません。

専門分野(法律・医療): 高度なリサーチ支援

法律や医療などの専門分野では、複数の判例データベースや最新の学術論文、ガイドラインなどを網羅的に調査する必要があります。 Agentic RAG は、複数の専門データベースを横断的に検索し、関連情報を統合・要約することで、専門家のリサーチ業務を大幅に効率化します。従来の RAG では困難だった、情報源ごとの信頼性を評価し、矛盾する情報を特定するといった高度な処理も期待できます。


Agentic RAG を導入するメリット

メリット1: より複雑な問題解決と意思決定の支援

従来の RAG が「情報検索」の自動化に留まるのに対し、 Agentic RAG は「調査・分析プロセス」そのものを自動化します。複数の情報源から得られた断片的な情報を統合・分析し、人間が行うような多角的な視点での意思決定を支援できる点が最大のメリットです。これにより、より高度で戦略的な課題解決にリソースを集中させることが可能になります。

メリット2: 変化への動的な対応力

ビジネス環境や参照すべき情報源は常に変化します。従来の RAG では、情報源の変更や追加のたびにシステムの改修が必要でした。 Agentic RAG は、利用可能なツールや情報源の中から最適なものを自律的に選択するため、変化に対して非常に柔軟です。 新しいデータベースや API が追加されても、エージェントのツールリストに加えるだけで、すぐに対応できます。

メリット3: 開発・運用効率の向上

複雑なタスクに対応する RAG システムを従来の方法で構築しようとすると、考えられるすべての分岐を事前に設計し、ハードコーディングする必要がありました。 Agentic RAG では、AI エージェントに大まかな目的と利用可能なツールを与えるだけで、具体的な実行計画はエージェント自身が立てるため、開発工数を大幅に削減できます。人間が細かなルールを管理する必要がなくなり、運用効率も向上します。


Agentic RAG 導入時の注意点・ポイント

注意点1: コストの予測困難性

従来の RAG は参照する情報源や AI の呼び出し回数が開発段階で事前に固定されているため、コストが予測しやすいという利点がありました。

一方、 Agentic RAG は、 AI エージェントが自律的に判断し、必要な分だけ情報を取得するため、従来の RAG が大量の情報を一度に読み込んでいたケースと比較して、結果的にコストを抑えられる可能性があります

しかし、その自律性こそがコストの予測を困難にする最大の要因です。エージェントがタスクを解決するために、人間の想定を超える回数の検索やツール利用を行う可能性があり、意図せずコストが高額になるリスクを伴います。そのため、エージェントの行動回数や利用できるツールに上限を設けるなど、コストを適切にコントロールするための「ガードレール」の設計が不可欠です。

注意点2: 処理の遅延(レイテンシー)

自律的な計画や複数ステップの推論は、高い柔軟性をもたらす一方で、処理に時間がかかるという側面があります。リアルタイム性が厳しく求められるアプリケーションでは、Agentic RAG の思考プロセスが許容できない遅延(レイテンシー)を生む可能性があります。 従来の RAG の高速性と、 Agentic RAG の高度な問題解決能力を、用途に応じて使い分ける視点が求められます。

注意点3: 高度な自律性に潜む信頼性のリスク

Agentic RAG は、自己評価の仕組みを持つため、従来の RAG と比較して信頼性の高い回答を導き出すことが可能です。しかし、その高度な自律性は、新たな信頼性の課題も生み出します。エージェントは自ら計画を立てて行動するため、その思考プロセスは完全なブラックボックスになりがちです。人間が予期しないツールを利用したり、誤った推論を続けたりするリスクはゼロではありません。そのため、従来の RAG以上に信頼性は向上しているものの、最終的なアウトプットの品質を保証するためには、エージェントの行動ログを監視し、異常な振る舞いを検知した際に人が介入できる仕組みや、最終的なアウトプットを人間が検証するプロセスを組み込むことが、依然として重要です。


まとめ

Agentic RAG は、自律的な AI エージェントと RAG を融合させ、 AI を単なる情報検索ツールから、複雑なタスクを解決する「問題解決パートナー」へと進化させる技術です 従来の RAG が抱えていた複雑な問いへの対応力や信頼性の課題を克服する一方、コストの予測困難性や高度な自律性に潜む信頼性のリスクといった新たな側面も持ち合わせます。 この技術の特性を正しく理解し、シンプルなタスクには従来の RAG 、複雑で動的なタスクには Agentic RAG といったように、目的や要件に応じて適切に使い分けることが、その効果を最大限に引き出す鍵となるでしょう。


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