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人材の「活躍の場」から設計。リコーが取り組んだ、全社構造改革を支える「異動先逆算型」スキルアッププログラムの全貌

株式会社リコー

  • 電気機器
  • 基礎
  • 実践
  • 応用

OA機器メーカーから「デジタルサービスの会社」への変革を掲げる株式会社リコー(以下、リコー)。その中核戦略の一環として推進してきたデジタル人材の成長支援施策「スキルアッププログラム」は、業務を離れて、4〜12ヶ月間程度の期間をプログラム受講にフルコミットするという大胆な設計が特徴です。

学びを現場での実践へ結びつけるために、同社が導き出したのが「異動先を先に決める」というアプローチ。94名を成長領域へと送り出した取り組みの全容を、技術統括部 技術経営センター エキスパート 宮内 克爾 様に伺いました。

※掲載内容は取材当時(2026年3月)時点の情報

課題・背景

  • 事業転換に伴う適正な人材再配置が求められていた。
  • 学んだスキルを現場実践へ確実につなげる設計の構築が必要。
  • 異動先の明確化が、受講者の意欲と成果を最大化するという仮説。

解決策・実施した研修

  • 活躍場所を先に確定してから学ぶ、独自の「異動先逆算型」モデルを採用。
  • 業務を離れ一定期間学習に専念するスキームを構築。
  • キカガクが設計から運営、実践型OJTまでを一気通貫で伴走支援。

効果・成果

  • 計94名の異動を実現。
  • AI開発や学会発表など、異動先で即戦力として活躍できるまでの事例も。
  • グループ内企業でのキャリアチェンジが可能な仕組みを確立。

事業構造の改革に向け、リスキリングを人的資本戦略の一角に

一定期間フルコミットのプログラムを行うことになった背景には何があったのでしょうか。

リコー 宮内様(以下、宮内様):リコーは2020年に「デジタルサービスの会社になる」と宣言し、事業構造の変革を図ってきました。

成熟領域として位置づけてきた既存事業の強みは維持できているものの、会社として成長を実現していくための成長領域への人員シフトは、もはや選択ではなく経営上の必須課題でした。

事業環境が急速に変化する中、デジタル領域での競争優位を確立していきたい。そして、リスキリングを通じた成長支援こそが、全社的な構造改革を力強く推進する原動力になる。そういった確信が、本プログラムの出発点となりました。

デジタル人材の育成を、人事施策の枠を超えた全社的な戦略と位置づけ、「一定期間業務を離れてプログラム受講にフルコミットする」という大胆な投資を決断しました。

「研修して終わり」を防ぐために――異動先起点の研修設計という発想

研修の前に異動先を決めるという設計にはどのような意図があるのでしょうか。

株式会社リコー 技術統括部 技術経営センター エキスパート 宮内 克爾 様

宮内様:研修で習得した知識やスキルをいかに現場実践へつなげるか、これは多くの企業が向き合ってきた共通のテーマです。

そこで考えたのが、リスキリング後の活躍の場を研修よりも先に設定するという発想です。研修の前に異動先を確保し、そこでの活躍を見据えて育成を組み立てるバックキャスティング型のプログラム設計が生まれたのはこうした経緯からです。

活躍の場が見えることで受講生のモチベーションと学習密度が向上し、学んだ知識やスキルを有効活用できると考えました。

異動先部署の確保における苦労と工夫はどのようなものがありましたか?

宮内様:異動先部署の確保には、相応の時間と労力をかけました。各部署のステークホルダーへの承認を得るだけでなく、実際に人材を受け入れる現場の方々にも取り組みの意義を説明し、理解と協力を引き出していく地道な取り組みが欠かせませんでした。

社内の人材を育成するよりも、キャリア採用のほうが費用対効果が高いのでは等の声も一部ありましたが、グループ内人材の価値やメリットを粘り強く説明し、異動先を確保しました。

受け入れ側が求める人材要件の把握も丁寧に向き合った部分です。現場の責任者にヒアリングを実施しようとしても、より上位レイヤーの方や対象の部署があるグループ会社の人事担当とのコミュニケーションに終始してしまい、現場が求める要件との乖離が発生することも少なくありません。人材像を正確に掴むために、実際に一緒に働く現場のメンバーとの対話も重視して取り組みました。

アセスメントから実践型OJTまで一気通貫の設計。実践力を重視したスキルアッププログラムの全体像

スキルアッププログラムの全体構成を教えてください。

宮内様:はじめに入口アセスメント(※)として研修前に知識・スキルアセスメントを行います。その後まずインプット研修を行い、中間アセスメントの後に実践力強化のための実践力OJTを実施。現場配属の前に、アセスメントとして卒業評価を行います。

※注:アセスメントの一部はキカガク以外の企業が提供するサービスを採用、育成領域に応じて複数の研修パートナーを採用、研修パートナー企業間の連携や情報共有も重視

各フェーズにアセスメントを組み込み、習熟度を客観的に可視化できる設計にしたことは、プログラム全体の質を担保する上で大きな効果があったと感じています。

異動先部署の確保以外で本プログラムのポイントはありますか?

宮内様:実践力強化のために、実践力OJTの時間を確保したことです。知識のインプットだけで終わらせず、実際のプロジェクトで成果物を作るアウトプットの場を用意しました。

実践力OJTでは、習得したスキルを活かして実際に新規事業・新規プロダクトの開発に取り組みます。架空の課題のみではなく、ビジネスとして成立しうるプロダクトの企画から開発までを一貫して手がけることで、学びを「本物の実践力」へと転換する設計です。

これにより、受講生がAIツールを開発したり、学会発表レベルの成果を創出したりと、想定を超える成果が出ています。

なお、本プログラムは現在の名称になる以前は「実践力強化プログラム」と呼んでいました。その名が示す通り、実践を中心に据えた設計思想は、所期の設計から一貫して変わっていません。

また、評価においても実践力を重視し、タスクベースで「〇〇ができた/できていない/これを達成すればできる状態」という実績を定量的に評価する設計にしています。

日常業務の中ではセンスや人柄などの定性的な評価に頼ってしまう、頼らざるを得ないケースも少なからずありますが、それでは再現性を持った育成の難易度が高まってしまいます。現場業務に必要なタスクと、そのタスクを実行するために必要なスキルを定義して可視化し、アセスメント等でそのスキルがあるかどうかを見極め、明確な基準を持って評価するという設計です。

プログラム参加者はどのように集めましたか?

各部門からの推薦と希望者が手を挙げる公募の両方で募集しました。これほど大規模なリスキリング研修の前例はない中で、自ら手を挙げて参加を志望してくれた社員も一定数いたことは非常にポジティブに捉えています。

今後も継続して、社内でのキャリアチェンジの仕組みとして、自主的な応募の比率を高めていきたいと考えています。

パートナー選定の決め手は「柔軟に寄り添う伴走」

プログラム運営のパートナーとしてキカガクを選んだ決め手は何でしたか?

宮内様:最大の決め手は、受講者一人ひとりに柔軟に寄り添う姿勢でした。クラスごとに担任を専任するきめ細かな運用実績があると知り、当初抱いていた運用イメージに合致していると感じました。

受講者の学習習慣はそれぞれ異なります。自分のペースで主体的に学ぶ習慣が身に付いている受講者もいれば、学び方そのものから壁に当たってしまう受講者もいます。多様なバックグラウンドに応じて研修内容やサポートの強度を調整できる柔軟性こそが、パートナーに最も求めたことでした。

実際に、私の想定を超えるほど丁寧に一人ひとりに向き合っていただけました。期待を超えるサービスの提供は、ビジネスの基本ではあるものの、実現するにはそれ相応のハードルがあるものです。

また、「どのようなスキル要件の人が参加しても卒業できるようサポートする」として、提案時には卒業率93%をコミットいただいたことも大きな後押しとなりましたし、実際にコミットいただいた割合を超える卒業率を達成しています。

受講生へのフォローで重要視しているのはどのようなところでしょうか。

宮内様:リモートでの研修が主体だったため、日々のコミュニケーションは重要視していました。業務を離れて100%研修に集中してもらうためにも、毎日のフォローは大切です。

担任制により受講者一人ひとりへの丁寧なフォローが実現し、弊社の運営事務局とキカガクで実施する週次定例でも、バイネームで状況共有やフィードバックをいただけました。おかげで、各受講者の成長の過程をリアルタイムで把握することができました。

別の視点では、新人研修などの初学者向けの成長支援の取り組みにおいては、リアルの膝詰めでの運用が重要という根強いイメージを私自身も持っていたのですが、リモート環境でもコミュニケーションの質を担保もしくはリアル以上の効果を出してもらったことはアンコンシャスバイアスのブレークスルーにもつながったと感じていますし、新たな気付きも与えてもらったことに感謝しています。

社内人材だからこその「即戦力化」、高い育成成果が組織に納得感を生んだ

卒業生が配属された現場からの評価はいかがでしたか?

宮内様:スキルアッププログラムは、これまでに94名が修了しています。

当初は「キャリア採用のほうが費用対効果が高いのでは」という声も一部挙がっていましたが、実際に卒業生が現場に配属されてみると、評価は変わっていきました。

もちろん高度な専門技術を必要とする領域では、即戦力のスキルを持つキャリア採用が強みを発揮する場面もあります。一方で、リコーの文化や社内事情を熟知した社内人材がデジタルスキルを習得した場合、現場への馴染みやすさや既存チームとの連携のスムーズさという点で確かな強みを発揮できます。そうしたそれぞれの強みの理解が現場に広まり、社内人材育成の価値が改めて認識されるようになりました。

プログラムの成果物にも期待を超える優秀なものが多数あり、成果が学会発表に繋がるなど、想定を超えた個人の成長が見られたと感じています。

個人的な視点で恐縮ですが、印象的な成果物の一つが、保育園児の発話データをもとに語彙力を判定するアプリの開発です。チャットボットとの会話を通じて対象の保育園児の語彙力をリアルタイムに測定するこのプロダクトは、キカガクのインターナショナルスクール事業での活用も検討されています。

語彙力判定アプリの画面イメージ

実践力OJTの場から、実際のビジネスに貢献しうるプロダクトが誕生したことは、プログラムの実践性を如実に示す事例と言えるでしょう。

期待以上の修了率で、多くの受講者がキャリアチェンジを実現できたのも喜ばしいことです。昨今は国内でも転職に対する意識のハードルも下がってきていますが、社外に転職することと比較し、社内異動の方が様々な面で社員個人にとっての負荷やハードルも低いでしょう。グループ内での人材活用や社員のキャリアの幅を広げるという観点でも、この取り組みによって新たなスキームを構築できたことには大きな意味があったと思います。

プログラムを通して、組織の変化はありましたか?

宮内様:受け入れ先となる部署での理解が進み、受け入れてもらいやすくなったと感じています。当初は理解を得るのに時間をかけた部分もありましたが、「また来るなら受け入れるよ」と前向きに言ってもらえるほどになりました。

受け入れ側にとっては、人件費や育成コストの増加といった負担が伴います。それでもグループ企業全体の変革という大きな目標のもとで前向きに協力してもらえるようになったことは、組織としての成熟を感じる変化です。

人材育成は1社にして成らず、他社を巻き込んで日本全体での育成へ

スキルアッププログラムの今後の展望をお聞かせください。

宮内様:スキルアッププログラムは、全社構造改革の位置づけとしては一段落しました。個人的には今後もこのスキームは維持したほうが良いと考えており、これからは維持・発展のフェーズに入ります。成長領域へのシフト、社内でのキャリアチェンジ、グループ内人材の有効活用の仕組みとして、社員のエンゲージメント向上に寄与できる可能性を感じています。

また、スキルアッププログラムに限った話ではありませんが、インプット学習の在り方についても、さらなる進化の余地があると感じています。率直に言えば、集合研修形式の知識インプット型や、一定程度のハンズオン講義等のいわゆる単発の分野特化講座型の既存の研修コンテンツは、ほぼすべてeラーニングで代替できると思っています。

オンラインで自由な時間に自律的に学習できる環境は既にあり、AI進化の恩恵で研究が飛躍的に進んでいる脳科学や行動経済学、文化人類学等のアカデミックな分野と連携することで、より効果的、効率的な学習が可能になると個人的には考えています。

そういった環境を会社として社員に提供することが、企業競争力の源泉になるとともに、社員のエンゲージメント向上の一助になるでしょう。

さらに、AIをうまく活用すれば、個々のレベルやニーズにあったeラーニングをカスタマイズしながら提供するなど、より効率的なインプットが可能になるはずです。

それ以上に大切なのは、学んだ知識をいかに実践で使えるようにするか、そこにフォーカスすることです。個別最適化された効率的で質の高いインプットと、一人ひとりの状況に応じた人ならではのきめ細かな伴走、この両輪の融合が、プログラムのさらなる進化を牽引することになると確信しています。

一方で、スキルアッププログラムについては手挙げでの参加を促すうえでの課題も残ります。社内広報や説明資料による情報発信を強化しても、異動後の業務を実際に体験したことがないと、どんな業務内容なのかイメージもつかず、一歩踏み出す踏ん切りがつかないという声が少なくありません。

プログラム参加前にデジタル職種の働き方をバーチャルで体験できる仕組みの構築や、異動経験者の話を聞く機会を設けるなど、イメージギャップを縮小する取り組みの強化を検討しています。

今回のプログラムについては、他社様からも関心を持っていただくことが多く、全体的な仕組みから、こういった細かな参加者の募集・フォロー方法などをナレッジとしてシェアする機会も増えています。

人材育成の施策は、他社とも連携し、よいところを相互に取り入れることで、より大きな効果を生み出せると感じています。キカガクのネットワークも活用させていただきながら、他社との情報交換や共同検証を通じて異文化を吸収していければと考えていますので、ぜひ今後も一緒にやっていければと思います。興味をもっていただける各社様からのご連絡をお待ちしています。

他社でリスキリングを推進する担当者へのメッセージやアドバイスをお願いします。

宮内様:施策の成果指標を追うだけでなく、受講者一人ひとりにとっての幸せを考える視点が、より豊かな人材育成につながるのではないでしょうか。

人材育成の主役は受講者です。私は「育成」ではなく、できるだけ「成長支援」という言葉を使うようにしています。あくまで我々にできるのは「支援」です。もちろん全社的な施策としてある程度の強制力をふるう部分はありつつも、それ以外では主役である受講者を「いかに支援するか」に徹することが大切だと思います。

また、昨今、スキルベース組織等のワードやイメージが先行し、スキルに着目している企業も多いと思います。それは間違っていないとも思いますが、スキルはタスクを実行するための一つの要素であり、タスク実行力を高めることこそが成長支援施策の本質であることを、各企業の共通理解として浸透させていきたいなとも考えています。

今回のプログラムにおいても、会社としての構造改革という命題はあれど、個々の社員のキャリアにも必ずプラスになるように考えてきましたし、タスク実行力という軸もブラさずに対応し、また、担当のメンバーにもその意識が浸透できています。もちろん、キカガクの皆さんにも、その意識や意義に共感してもらった上で対応してもらえたことにも非常に感謝しています。だからこそ、泥臭い社内調整や一人ひとりへの細やかなサポートまでやり切れたのだと思います。

命題に寄りすぎて数値目標に翻弄されすぎてしまうと、施策実行と数値目標の達成が目的になってしまい、本来の成長支援という目的を見失いがちですしね。

会社として伸ばしたい部分と受講者の意思が重なる部分を見つけ、最適な成長支援の形をつくる。弊社では、「個人の成長と事業の成長の同軸化」と呼んでいますが、こういった視点が重要だと思います。

写真左:株式会社キカガク DXコンサルタント&セールス 齋藤 準、中央:宮内様、右:株式会社キカガク 代表取締役社長 大崎 将寛

最後に

最後までお読みいただきありがとうございました。

キカガクでは業界業種を問わず 1000 社以上の企業に導入いただき、DX 人材育成における様々な課題解決をご支援しております。

20 社以上の育成事例もご紹介しておりますので、ご興味のある方はぜひご参考ください。

また、弊社キカガクが提供しているサービスの特徴やコース詳細についての資料は下記になります。コースごと学習内容の詳細やスケジュール等今回ご紹介してきれていないコースやサービスもご用意あります。DX 研修を検討されている方のご参考になれば幸いです。

ご担当者

株式会社リコー 技術統括部 技術経営センター エキスパート 宮内 克爾 様

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