皆さんこんにちは!キカガク長期コース卒業生 兼 UI デザイナーの川合です。
今回はデザインブログ第五弾として「人間中心設計」を紹介します!
この記事を読めば、自身のサービスをより使いやすくするヒントが手に入ります。
“完全理解“というだけあって、とてもボリューミーな内容となっています!
一度に読むのはツラい!という方のために「入門編」「概念編」「実践編」に分けました。
ご自身が気になるセクションから読んでいただいてOKです。
ブックマークして、少しずつ読むのもアリです!
コーヒーでも飲みながらリラックスして読んでいってください。
いくらすごい機能を搭載したアプリでも、使いにくいと継続してもらえません。
良いアプリは【技術】✖️【使いやすさ】で作られています。
今後、より「サービスの使いやすさ」は重要になっていくので、今から知識を学んでおきましょう!
キカガクブログでは「これさえ読めば一通りのデザインスキルが身に付く!」を目指し、
デザインについての記事を連載中です。
まだ前回の記事を読んでいない方は、ぜひそちらもご覧ください!
【入門編 ①】人間中心設計(HCD)とは?
人間中心設計(HCD)とは、「人間=ユーザーを中心としたモノ作り」のことです。
HCD は Human-centered Design の略語です。
国際規格「ISO9241-210:2010」によると、人間中心設計は、次のように定義されています。
システムの使い方に焦点を当て、人間工学やユーザビリティの知識と技術を適用することにより、インタラクティブシステムをより使いやすくすることを目的とするシステム設計と開発へのアプローチ
引用元:人間中心設計の国際規格ISO9241-210:2010のポイント
やわらかい表現で説明すると、「人間のことを理解し、ユーザーにとって使いやすいシステム作りをしよう」ということです。
【使いやすい】=【ストレスなく、長時間使っていても疲れにくい】 ということです。
- 違和感や疑問点がなく、問題なく使えること
- 簡単に操作手順を覚えられること
- 久しぶりに使っても、使い方を覚えていること
これらを前提とした設計が必要です。
【入門編 ②】人間中心設計の事例紹介
人間中心設計を推進する「人間中心設計推進機構」という特定非営利活動法人があります。
そちらで開催されている「HCDベストプラクティスアワード」というもので紹介されている事例を1つご紹介します。
楽天ペイ
プロトタイプを作る段階で1対1の面談式インタビューを繰り返し、人間中心設計のプロセスを実行しました。
「安全に加えて安心感が得られないといけない」「簡単よりもお得感」などの顧客インサイトを発見し、実際にサービスに反映しました。
その結果、ユーザーや導入店舗の評価につながったそうです。
プロトタイプの段階でユーザーの声を反映できたこと、関係者だけでは気づけなかったインサイトを知れたことが UX を高めた理由になった事例です。
現在の楽天ペイ(引用:UI Pocket)
【概念編 ①】人間中心設計はなぜ必要なのか?
答えは「作る人と使う人が違うから」です。
「どういうこと?」と思う方もいるかもしれません。
人間中心設計の必要性を説明するには産業革命がキーワードになります。
産業革命以前
産業革命以前は作る人と使う人が 1 対 1 で向き合い、モノ作りをしていました。
使う人の意見を親身になって聞き、それをモノに反映していたので、必ず使う人にフィットするモノができます。
縄文時代の石斧や奈良時代の土器など、簡単なモノであれば自分で作っていたことも多く、使い勝手は自ずと使う人にフィットしていました。
産業革命以降
産業革命以降になると、モノを作るスピードが格段に上がり、大量にモノを作ることができるようになります。
そのため、【作る人】と【使う人】が対話しながらモノ作りをする機会が激減します。どのような人が使うのか見えないため、使いにくいモノが生まれるようになります。
使い方が分からない場合もすぐに聞けず、「私には合わない!」「思っているのと違う!」ということが起きます。
そこで「作る人」と「使う人」のギャップを埋めるために必要になったのが「人間中心設計」です。
「UIデザイン」の記事で、【ウサギのデザイナー】と【ゾウのユーザー】を例に紹介しています!笑
ぜひそちらもご覧ください。
【概念編 ②】人間中心設計はいつから始まった?
人間中心設計の考え方は 1900 年代の中頃から広がっていきます。
それまでの多くのモノは「技術中心設計」でした。技術ありきでさまざまな製品が作られ、使いやすさはほとんど考慮されていませんでした。
人間中心設計の考え方が始まる前は、人間は機械の操作や読み取りを間違えないように訓練を受ける必要があり、人が技術に合わせなければならなかったのです。
現在でいえば、人とAIの関係に近いかもしれません。
人が生成AIにどう質問を投げかけるかを調整する「プロンプトエンジニアリング」が注目されていますが、これも、人がAIに合わせています。
しかし、多くの訓練を積んでもヒューマンエラーは起こります。
そこで起きた多くの失敗を踏まえ、人間が技術に合わせるのではなく、技術が人間に合わせる「人間中心設計」の考え方が確立していったのです。
【概念編 ③】人間中心設計とUXの違い
このブログのシリーズを読んでいただいている方なら「人が使いやすい設計にする」という点から、「じゃぁ、UX と似ているのかな?」と感じた人もいるのではないでしょうか。
「そもそも UX って何だ?」という方は以前出した記事もぜひチェックしてください!
人間中心設計と UX の関連性について、ISO 9241-210 では次のように紹介されています。
設計の決定はユーザーエクスペリエンス(UX)に大きな影響を与える。人間中心設計は,設計プロセスの初めから終わりまでユーザーエクスペリエンスを十分に考慮することで良いユーザーエクスペリエンスの達成を目的とする。
引用元:人間工学-インタラクティブシステムの人間中心設計
つまり、人間中心設計の目的が良い UX を生むことであり、人間中心設計 = UX ではありません。逆にいえば、人間中心設計という手段だけで良い UX が実現されるわけではありません。
UX の方が人間中心設計より大きな概念です。
UX とはプロダクトの使いやすさだけではなく、マーケティングやブランドなどの要素も含む概念です。つまり、人間中心設計はあくまで手段であり、そのプロセスを通して実現するものが UX です。
UX とは、サービスを使ったユーザーにとっての、感情が揺さぶられるような体験です。サービスを利用してみて「使って良かった!」「これは楽しいぞ!」と思ってもらえたら、UXがうまれています。
UX はデザイン以外にも、「マーケティング」「ユーザビリティ」「品質」など、さまざまな要素で構成されています。
人間中心設計はこれらを「ユーザーを中心にして検討する考え方」だと認識しておくとよいでしょう。
【実践編 ①】人間中心設計の6つの原則
お待たせしました。いよいよ本題です。
人間中心設計には、6 つの原則があります。人間中心設計の国際規格「ISO9241-210:2010」により定められた原則は、次の通りです。
- ユーザー、タスク及び環境の明確な理解に基づいて設計
- 設計と開発全体を通してユーザーが参加
- ユーザー中心の評価に基づいて設計を実施し、改良
- プロセスの繰り返し
- ユーザー体験(UX)全体を考慮して設計
- 専門分野の技能及び視点を含む設計チーム
ここからは、それぞれの原則について解説します。
① ユーザー、タスク及び環境の明確な理解に基づいて設計
人間中心設計の 1 つ目の原則である「ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン」とは、ユーザーについて明確に理解して、デザインすることを指します。
- ユーザー:サービスを利用するユーザーは「どんな人か」
- タスク :ユーザーがサービスを利用する「理由」
- 環境 :ユーザーはどんな「状況」で、サービスを利用するか
つまり、サービスを利用している人の目的や状況に合わせたデザインを行う必要があるとのことです。満たすべきニーズを見誤っては、ユーザーが満足するものなど作れません。
ただし、ユーザーは自分自身が どんな悩みを解消したいのか、どんなものが欲しいのか を明確には理解していません。
多くのユーザーの漠然としたニーズを集め、見える形で提供することでイノベーションが生まれます。
ユーザーを調査し、ユーザーの欲求を本当に満たせるものを、設計することが求められます。
② 設計と開発全体を通してユーザーが参加
2 つ目の原則は、ユーザーにも参加してもらいながら設計・開発を進めるということです。
1 つ目の原則であるユーザー理解のためには、実際に彼らが参加してくれることが最も効果的です。
例えばユーザーインタビューや、ユーザーテストに参加してもらうなど、設計・開発全体を通したプロセスでユーザーに協力をお願いすることで、よりユーザー視点が反映された良いプロダクトの開発につながります。
完成した後に初めて使ってもらうと、改善が難しくなってしまいます。
簡単な模型を作り、早めの段階でユーザーに参加してもらいましょう。
③ ユーザー中心の評価に基づいて設計を実施し、改良
人間中心設計の 3 つ目の原則は、開発も改善もユーザー中心の評価をもとに行うということです。
例えばユーザビリティテストでプロトタイプを評価してもらうなど、ユーザーの実際の声を聞いて彼らが求めていることを知ることで、ユーザーにとって使いやすいプロダクトに近づけることが可能です。
プロダクトの改善をする際には、実際の利用ユーザーに評価してもらうことができれば、より明確に課題を抽出でき、解決方法の手がかりを発見できる可能性が高くなるでしょう。
「思っていたのと違う…」という最悪の事態を未然に防ぐことができます。
④ プロセスの繰り返し
4 つ目の原則は、「人間中心設計の 4 つの基本プロセス」の反復です。
プロダクトができたら終わりではなく、その後の評価で発見した課題を解決し、再度評価→課題発見→解決のサイクルを繰り返す必要があります。
サイクルを 1 周しただけで完璧なプロダクトになることは少なく、サイクルを繰り返すことで徐々に完成度が上がっていきます。
何度も「作る→評価してもらう→改善する」を繰り返し、着実に良いモノに仕上げていきましょう。
⑤ ユーザー体験(UX)全体を考慮して設計
5 つ目の原則は、人間中心設計の目的を示唆するものです。
人間中心設計の目的とは、良い UX を生み出すことです。
UX とは、プロダクトを利用した際の体験・感情の総称で、それが「楽しかった」「便利だった」といったポジティブなものであれば「良い UX」です。
ただ、UX 全体を考慮するということは、より複合的な視点が必要です。
例えばアプリを開発する際に、アプリ自体の機能性や使いやすさだけ考慮するのでは不十分です。
- ユーザーの使うデバイスが何か
- どんな状況で使うのか
- トラブル時のサポート体制 など
ユーザーがアプリを利用するときのあらゆる体験を想定しなければなりません
想定できる範囲は限られているため、「ユーザーに参加してもらう」「ユーザーに試しに使ってもらう」と予期していなかった事態を知ることができる可能性が高まります。
⑥ 専門分野の技能及び視点を含む設計チーム
最後の 6 つ目の原則は、設計・開発を進めるチームのメンバーに専門性の高い人を含める必要があるということです。
メンバーにいるとうれしい専門家の分野
- 人間工学やマーケティング
- アプリケーション分野
- プロダクトデザイン
- 経営分析
- プログラミング
- ユーザーサポート
ユーザー調査を行う、マーケティングやデータ分析の専門家。
設計は、デジタル系のサービスなら、デザイナーとプログラマーが共同で行うことになるでしょう。
書籍や Web コンテンツを作成するなら、ライターや編集のスペシャリストも必要です。
現実的にはこれら全ての専門家を集めることは難しいと思います。
可能な限り、ユーザー中心の視点で開発を進められるチーム作りを意識する必要があるでしょう。
これらをまとめるディレクターの重要性
さまざまな職種の人材をまとめあげるには、多方面の知識と経験を持つ、ディレクターが欠かせません。
分析されたデータから、ユーザーのニーズやデザインの方向性を見出し、分野の異なる専門職たちに伝える能力が必要です。
チーム全体を管理するマネージャーは、人間中心設計に精通した人材が好ましいです。各専門職が持つスキルを、ユーザー(人間)中心で組み合わせ、プロジェクトする能力が求められます。
分野・職種・ライフスタイルなど多様性のあるチーム作りを意識することで、多様化するニーズを満たすことができるでしょう。
【実践編 ②】人間中心設計の4つの基本プロセス
人間中心設計は、4 つのプロセスと手法から成り立っています。
実際の設計では、それぞれのプロセスを行き来しながら、何度も繰り返すことが重要です。
一つひとつのプロセスの進め方と、各プロセスの相関関係について確認しましょう。
STEP ① 調査:利用の状況の把握と明示
人間中心設計の最初のプロセスは、「調査:利用の状況の把握と明示」です。
実際のユーザーから情報を集め、利用状況を把握します。
具体的には、次にような方法で、ユーザーのリアルな意見を集めます。
調査方法の一例
- アンケート
- インタビュー
- フィールド調査・観察
STEP ② 分析:ユーザーの要求事項の明示
人間中心設計での2番目のプロセスは、「分析:ユーザーの要求事項の明示」です。
「STEP① 調査」で集めたデータを集計・分析し、ユーザーが何を求めているのか=要求事項を洗い出します。
洗い出した要求事項を使い、ユーザーにとっての課題を定義します。
課題の定義には、具体的な架空のユーザーを作成する「ペルソナ設計」が便利です。
STEP ③ 設計:解決策の作成
人間中心設計での3番目のプロセスは、「設計:解決策の作成」です。
「STEP② 分析」で見えてきたユーザーの要求事項を基に、ユーザーの課題の解決策=サービスのプロトタイプ設計を作っていきます。
プロトタイプ設計に役立つのが、分析を基に設計したペルソナです。
ペルソナ=具体的なユーザー像がはっきりしていれば、そのユーザーが何に悩み、どう解決したいのかが見えてきます。
悩みは把握していたとしても、解決方法がわからないユーザーも多数いるため、解決策まで提案できるように努めましょう。
STEP ④ 評価:要求事項に対する設計の評価
人間中心設計での最後のプロセスは、「評価:要求事項に対する設計の評価」です。
「STEP③ 設計」でつくったプロトタイプをユーザーに見せ、利用してもらい、評価を集めます。
目的は、高評価を集めることではなく、より多くの改善点を見つけること。
ほとんどのケースで、最初から高評価が集まることはありません。
ユーザーに使ってみてもらうことで、制作側からでは見えなかった改善点・悪い部分が見えてきます。
大切なのは、「評価→調査→分析→再設計→評価→…」のサイクルを、何度も繰り返すこと。
常にユーザー(人間)を中心におき、改善を繰り返すことで、次第に評価が高くなっていきます。
【実践編 ③】人間中心設計を学べる書籍紹介
事例紹介でも紹介した「人間中心設計推進機構」と「近代科学社」が協同した、人間中心設計入門 がお薦めです。
そもそも人間中心設計をメインテーマにした書籍が少ないため、ここから読み始めるのがベストです。実はこの書籍は 0〜7 巻あるので、このシリーズを読むだけでも一通り学べると思います!
まとめ
この記事では下記のことについて紹介しました。
- 人間中心設計(HCD)とは?
- 人間中心設計の事例紹介
- 人間中心設計はなぜ必要なのか?
- 人間中心設計はいつから始まった?
- 人間中心設計とUXの違い
- 人間中心設計の6つの原則(本題)
- 人間中心設計の4つの基本プロセス
- 人間中心設計を学べる書籍紹介
人間中心設計は、人間(ユーザー)中心で考え、ユーザーが本当に喜んでくれるものをつくるためのプロセスです。
まずは、難しい定義をいったん忘れて、「ユーザーの声」に耳を傾けてみましょう。
ユーザーの声が集まれば、どんなモノが求められているのかが見えてきます。
ユーザーの視点を常に取り入れ、ユーザーにとって使いやすいモノをつくりましょう!